第2次世界大戦時の日本のチョコレート事情

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戦争とチョコレートはなかなか結びつかないと思いますが、歴史を調べてみるとチョコレートは戦争とかなり結びついています。

戦前から戦中の日本人がチョコレートを食べるイメージはあまりないかもしれませんが、昭和初期からすでにチョコレートは人気のお菓子でした。

身近な嗜好品だからこそ、戦争のような時代の大きな変化の影響も簡単に受けてしまうのです。

調べたら、なかなかに面白かったので、今回は第2次世界大戦時の日本のチョコレート事情を紹介します。

 

第2次世界大戦時の日本のチョコレートとは?

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日本は1940年12月から10年間カカオ豆の輸入はできなくなりますが、カカオ豆の生産地域であるマレーシアやインドネシアを植民地としていました。

そのため、チョコレートの製造は続けられましたが、カカオ豆は軍により統制され、軍のための医薬品やチョコレートの材料製造として、一部の業者にだけ配られました。

森永と明治といった現在の日本のトップお菓子メーカーも当時、軍の要請を受け、インドネシアなどに社員を派遣し南方でチョコの製造を行いました。

カカオバターは解熱剤や座薬の材料としても使われました。また、カカオ豆が足りないため、代用品を使ったチョコレート(通称グル・チョコ)製造が始まったのです。

軍人向けチョコレートとは?

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パイロット向けの居眠り防止食

航空機のパイロット向けに居眠り防止食としてカフェイン入りのチョコレートが製造されました。

現在の戦闘機は自動操縦機能がありますが、この頃はそのようなものはないので眠ることは許されなかったのですが、操縦中のパイロットは強烈な眠気に襲われるそうです。

健康に良いとされるカフェインですが、体質によって合う合わないがあり、利尿作用や興奮感を感じやすい人もいるため、中には大変な苦労した人もいると思います。

潜水艦要員向けの振気食

潜水艦の乗組員向けには振気食として溶けないチョコレートが製造されました。振気食とは戦意などの意欲を落とさないための食事です。

潜水艦の中は狭くなかなか外に行くこともできないため、ストレス解消のために甘みが重要な役割を果たしました。

潜水艦の中は時に40度を超える暑さになるので、溶けないことは非常に重要で、大東製薬が特殊な機械でチョコレートを圧縮して製造しました。

溶けないチョコレートは現在も軍隊に需要があり、第1次世界大戦の頃からイギリスなどで製造され、最近もアメリカ軍が中東の兵士に支給していますが、味は不評です。

庶民はどんなチョコを食べたの?

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砂糖などの原料を入手できずに多くの和菓子屋などのお菓子屋さんが廃業した時代でもあり、庶民はチョコレートを始めとしたお菓子を食べる機会が少なかったです。

チョコレートは軍人さんが食べるけれど、製造の過程で出るココアを庶民が飲んでいたということもありませんでした。

戦下のレシピ 太平洋戦争下の食を知る 」(岩波アクティブ新書)という本には米ぬかを真っ黒になるまで炒って、ココア風のビスケットを作ったという記述があります。

炒ったことで生じる香ばしさとぬかの油分がココア風に感じたのかもしれませんが、物資がない時代だからこその涙ぐましい努力を感じます。

チョコレート代用品計画なる計画も……

カカオ豆の輸入が1940年から10年もストップしてしまったため、すっかり高嶺の花になってしまったチョコレート。

庶民でも食べられるようにしようと生まれたのがチョコレート代用品計画です。なんというか、これを考えた人はチョコレートが大好きだったんでしょうか。

この計画書に基づいて作られたのが、グル・チョコレートだと思われます。

今ではチョコの代用品と言えば、キャロブ豆ですが、地中海原産の植物なので、当時は手に入らなかったのかもしれません。

グル・チョコレートとはどんなチョコだったの?

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グルとはグルコースブドウ糖)の略です。通常のチョコレートは砂糖を使いますが、当時はなかったのでブドウ糖を砂糖代わりに加えました。

カカオの代わりになったのはゆり根、チューリップ球根、オクラ、チコリ、イモ類、小豆などでほぼなんでもありの状態です。

ホワイトバターの代用品として大豆油、ヤシ油、ヤブニッケイ油などが用いられ、最後にバニラで香りをつけたら完成します。

過去に所さんの目がテン!という番組で、グル・チョコを再現していますが、味は別物だそう。詳細は以下にて確認できます。

所さんの目がテン!

チョコレートを食べられる今に感謝

戦争が始まると、カカオ豆の輸入がストップしたため、チョコレートは一気に高級品となった上に軍人用の携帯食となったので、庶民は食べる機会がほぼありませんでした。

庶民は代用のグル・チョコを食べるなどして耐えていたのですが、物資不足が深刻になるとそれすらままならなくなっていったことでしょう。

日本はチョコレートの原料であるカカオ豆の生産に適さないため、現在でも外国からの輸入に頼っています。

今でも戦争など不測の事態が発生すればカカオは手に入らなくなるかもしれません。平和あってこそのチョコレートなので、これからも末永く平和であってほしいです。

参考文献

戦下のレシピ 太平洋戦争下の食を知る 」高橋美奈子・著(岩波アクティブ新書)

「チョコレートの世界史」武田尚子・著(中公新書